「実践!管理者心得」第87回目

負けるが勝ち


クレームなどが発生して対策会議を行うと参加者からいろいろな意見が飛び交います。現地スタッフの部下から、あまりに的外れな意見やおかしな考え方が出てくると日本人駐在員の中には徹底的に論争して議論で勝とうとする人がいます。

議論に勝とうとする当人は「上司として部下に議論で負けるわけには行かない」とのプライド、そして「部下の間違った意見に対しては理路整然と説明して、相手を論破すれば相手は自分の意見が間違っていたことが分かり、納得するはずだ」と考え、議論に勝つのは部下のためでもあると思っている人が多いのです。しかしこの議論で勝とうとする人は会議の目的を勘違いしていると言わざるを得ません。

クレーム対策会議の目的は「参加者の合意と納得の上で適切な対策を決定し、参加者が責任を持って対策を実施すること」にあるはずです。すなわちクレーム対策会議は日本人駐在員にとって論争の勝ち負けを決めるのが目的ではではなく、相手に正しい意見を受け入れて、納得してもらい、行動してもらうことが目的なのです。これを忘れている駐在員が意外と多いのです。会議で部下を徹底的に論破して「自分の正しい意見で相手を敗北させた」と満足感に浸っている人がいますが、相手は敗北感と悔しい思いが残るのです。

私は現地管理者向けの「職場のコミュニケーション改善手法」のセミナーも行っていますが、デール?カーネギー著の「人を動かす」を教材として使っています。ご存知の通り、この本は1958年の発売以来、管理者の教科書として世界中で大ベストセラーを続けています。この本では議論の勝ち負けの危険性について次のように指摘しています。

「相手の誤り、間違いの指摘は、その人の知能、判断、誇り、自尊心に平手打ちしていると同じである。相手は当然打ち返してくる」

人間は感情の動物です。これをお読みの皆さんも会議で自分の意見が上司からボロクソに批判され「上司である私の意見が正しいのだから、おまえは私の指示に従えば良いのだ」と論破されたらどのように感じますか?

上司の意見に心から納得してその通りにやろうと思いますか?上司の意見に従い、指示された対策を実施することは自分の敗北を認めることになりますから、感情的に納得できないはずです。また上司に対する怒りと嫌悪で対策の指示を守ろうとしなくなるのが普通です。

日本人駐在員の中には「私は正しいことを言っているのだが部下が付いて来ない」と嘆く人が多いのですが、その背景にはこのようなケースがあることが実に多いのです。

それではどのようにすれば良いのでしょうか。「負けるが勝ち」との諺がありますが、まさにこれは管理の真理を突いていると言えるでしょう。極端に言えばクレーム対策会議で日本人駐在員の意見が論議で負けても、部下が正しい意見を理解して、納得し、対策を実行してクレームの再発が防止できれば、クレーム対策会議の目的を達したことになるのです。ですから最終的には日本人駐在員は勝ったことになるのです。

自分の意見で相手を徹底的に論破しようとせず、一定の落し所を見つけて妥協し、部下に優越感を与え、自尊心を満たし、こちらへの好意を引き出すことが大切です。部下の好意が得られれば会議は成功したのも同じです。会議終了後は部下は決定事項を喜んで実行するはずです。「負けるが勝ち」の意味をもう一度噛み締めて、日々の管理に望んで欲しいと思います。






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著者:UVC管理者セミナー講師 立川 剛
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